2013年9月15日日曜日

『グーテンベルク』(マイケル・ポラード)

偕成社の「伝記 世界を変えた人々」シリーズ第15巻。
主人公のグーテンベルクは言わずと知れた印刷術の発明者で、人類史上最初のIT革命のトリガーを引いた人物と言えます。

そんな偉大な人物の伝記にも関わらず、第一章の表題は「気がかり」。なんて冴えない表題なんでしょうか。共同経営者であるフスト氏との裁判に完敗し、20年がかりで完成させた印刷機械や事業を失うところから話は始まります。部下にも「わたしたちも生活してゆかねばなりません」と見放され、ひとり途方に暮れるグーテンベルク。哀れグーテンベルク。悪漢フストに天誅を! 

しかし読み進めていくと、実は印刷機械の開発や膨大な印刷実験にかかる費用は全てフスト氏の融資によって支えらており、しかもグーテンベルクは借金を再三踏み倒していたことが判明します。
そう、冒頭の裁判は「貸した金を返せないなら、てめえが開発したもの全部渡しやがれ」という訴えによるものだったのです。グーテンベルクはこういったいざこざをいろいろなところで起こしていたようで、皮肉にもそれらいざこざの裁判記録が謎の多いグーテンベルクの足跡をたどる有力な資料になっているそう。

本書では、最後は「借金をさらに増やしてでも仕事をやり遂げたこと」、そして「印刷術によって自由な知識へのとびらを開けたこと」を評価し、グーテンベルクについてポジティブな終わり方で締めくくっています。が、その裏で事業資金を供給し続けたフスト氏にももっとスポットライトが当たってよいのではないでしょうか。いやもちろん余人をもって代え難いのはグーテンベルクのほうですし、キュリー夫人やマザー・テレサと比べ「フスト」では役不足感は否めないので、「グーテンベルク with F」ぐらいのつつましやかなポジショニングで伝記になること期待します。